2015年1月20日火曜日

イナゴ身重く横たわる

 フィリップ・K・ディックの「高い城の男」(1962)読み返す。

いつものように、発作的に読みたくなったワケではなく、なんとまあ、この小説を実写化、テレビドラマ化、するという、奇っ怪な話が進んでいるらしいからだ。


いうか、もう、AmazonのUKでは、第一話のパイロット版が公開されている(オレの環境では観ることができなかった)。
まあ、これが数年後、完成し、そのまた数年後、日本でも観ることができるようになっては、遅すぎる。
いますぐ、観たい、でも、ない、だから、読む。そして、読んだ。


第2次世界大戦で、連合国側が負けて、アメリカがドイツと日本に3つに分割されている世界。ドイツはナチス・ドイツで日本は帝国日本である。小説の舞台となるのは、戦後15年ぐらい。
リアルタイムで読んだときは、もう、このあまりにも、魅力的な設定に興奮してしもうて、困った。
ただ、この小説読んでも、その魅力は、まったく、伝わらない。なぜなら、ディックの小説だから。
こいで、世界を二分している、ドイツ対日本の戦いになって、ドンパチドンパチした架空戦記もん、或いは冷戦下の米ソ間みたいな緊張の中の日独スパイ合戦みたいになったら、それはそれで面白いところ、でも、作者はまだまだ駆け出しの頃とは云え、ディック、ディックイズシックのフィリップ・K・ディックである。

まず、その世界で、日本とドイツが負け、連合国側が勝ったというSF「イナゴ身重く横たわる」がベストセラーになっている。
フツー、「日本とドイツが負け、連合国側が勝った」のだから、ホンマの現実と同じく、1960年代みたいに、米ソの冷戦下、と思えば、そうでない。「イナゴ身重く横たわる」では、アメリカとイギリスが覇権を争っている世界みたいなのだ。
・・・このSF内SFのズラし具合。それも、非常に気色悪いズラし、である。


易経」の占い、ほれ、占い師が筮竹ばらばらしてやる占いも、日本人、日本統治側のアメリカ人がいろんな場面でやりまくるんで(所詮、ディックも毛唐やのぉ、日本人がみんな占いで物事決めると思うてる・・・)としておったが、ラストあたりで、ぶったまげることになるわけである。


まあ、個人的で、申し訳ないが、オレがディックの小説読む場合、ディック・シフトをしくことにしとる。「登場人物、多少おかしなことしても、個性とみること」、まあ、平たく言えば、ディックの小説に出てくる人間もアンドロイドもレプリカントも後ワケのわからん生物体もみんな、(クスリやっている)と思うことにしとる。非常に魅力的なのだが、どっか変である。理解しようとしたら、こっちもクスリやるしかない、でも、オレは、きわめて社会的な人間なのだ。

でも、油断し、このシフトを取らずに読んだ。1962年の作品、さすがにディックもまだ駆け出し、まだ、「暗闇のスキャナー」時代ではないだろうと思ったのだ。

だから、田上のおっさんが、ラスト近くで観た、と言うか、体験した、と言うか、「イナゴ身重く横たわる」の世界に入った、と言うか、ワシらが今暮らしている方の世界に入ったというか、突然訪れたワケのわからん状況が、なんだったのか、今も、脳みそに、大きなクエスチョンが残っているわけである。

まあ、あと書き出したら、また収拾がつかんようになるんで、このへんで。あとは読んでください(ウィキペディアみたら、全部、オチまで書いてある・・オチに触れんよう触れんよう感想文書くんがどれほどしんどいことか・・)。

しかし、「イナゴ身重く横たわる」の方の歴史では、2015年どういう状況になっているんだろう?

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