ワシら貧乏中学生がひいひい言いながら、ビートルズのレコード買うか、カーペンターズのレコード買うか(それとも、映画の友買うか)悩んでいた頃、既に、T.レックスは全盛を迎えており、それが証拠に、サコという友人はビートルズ聴かんと、T.レックスばっか聴いておったものじゃよ。うほほほ。
サコの家行って、親の留守なことをいいこととして、デカイ音量で聴く、T.rexはカッチョ良かった。
不思議なことに、「おおっ!スゴいやんけ」と思い、必死のお願いをして、借りて家で聴くと、途端に、チンケな感じがして、アカンかった。ステレオの種類が違うのか、聴く音量が違うのか、オレの家庭環境がハイブロウ過ぎたのか、今となってはわからん。
ともかく、サコの家で聴くT.レックスは最高だった!
イギリスでの全部のシングル盤売り上げの6枚のうち一枚はT.レックスと云われた時代である。
ある日、学校の帰り、サコの家に寄ると、新しいT.レックスのアルバムがあった。青い目がギラギラするマーク・ボランの顔がジャケットだった。
聴かせてくれ、ちゅうと、サコの顔が曇った感じがした。そいでも、聴かせろ聴かせろと強引に聴くと、嫌な嫌な空気が流れた。(今確認すると、それは「SoundPit」という曲だった)
村の鎮守のカミサマ風のどう考えてもカッチョ悪い、古臭い美空ひばり主演の映画に出てきそうなイントロで、正直、もうどうしようもなくカッコ悪く思えたもんである。
サコを見ると、いつもは、「おそれおおくもかしこくも、T.Rex聴かしたるんじゃ、下郎」という風情なのが、もじもじ、オレの顔色伺うような素振りである。
「・・・なんか、日本来て、仮面ライダー観て作ったらしいわ」
「(昭和天皇陛下風に)あ、そう」
人生、「・・・・」で会話することはあんましないものだが、その時は、「ズィング・アローと朝焼けの仮面ライダー」のA面聴き終わるまで続いた。
マーク・ボラン凋落の原因について、今も、あれやこれや、云われているが、オレははっきり、この1974年の「ズィング・アローと朝焼けの仮面ライダー」の「SoundPit」のどうしようもないイントロと断言できる(当時はそう思ったのだが、今聴くとめっちゃイイ!)。
マーク・ボランともあろう人が日本来て、「仮面ライダー」ごときに感心してたら、困るのである。もう、ワシらの間ではとっくにとっくに、「仮面ライダー」は時代遅れになっとるのだ。小学生じゃあるまいし。せめて、森で魔法使いに会うレベルじゃないと。
恐竜の中で一番のティラノサウルス・レックスでT.Rexである。60年代ビートルズにとってグルーはインド人でよかったが、マーク・ボランになると、メタルなグルーじゃないとアカンわけで、好きになった相手はメインマン(男ですな)、そもそも、歌詞は英語なのでわけわからんのは、アホな中学生故しゃあないが、訳詞見ても、さっぱりワケがわからんので見ないでひたすら、聴く。T.レックスともあろうものが、よりによって「仮面ライダー」とは何事か、なのである。
若いころ、モッズが流行ればモッズの頂点になり、森で魔法使い会い弟子になり(実際は魔女と同棲してたそうである)、ヒッピーが流行る前から、ヒッピーで、デヴィッド・ボウイとはオカマ友だち(事実かどうかわからん)で、リンゴ・スターやエルトン・ジョンを子分のように扱うマーク・ボランが、日本来て「仮面ライダー」では、困るのである。
そして、カッコいいイントロ命のT.rexともあろうものが、よりによって「Sound Pit」のような美空ひばり主演の映画に出てきそうなイントロの曲作ってもろたら、ミュージック・ライフと東芝EMIのLPについてきたライナーがソースとは云え、ワシらの中で築き上げてきた「マーク・ボラン」のイメージが、足元から崩れていってしまう、ちゅうもんである。
まあ、ちゅうことで、当時のワシら・・というと、オレまで含まれるので、サコなどの日本のT.rex好きな中学生たちは、以降、T.Rexを見放した。多分、イギリスのガキ共(映画「ボーン・トゥ・ブギー」見ると、T.rexのファンちゅうたら、ほっぺがまだ赤いガキばっか)もそうだったのだろう。いや、そうだったに違いない。
以降、マーク・ボランは絵に描いたように落ち目になり、ワシらロック好きなガキは、芸術家気取りのジミー・ペイジやキース・エマーソンやピート・タウンゼントといったタックスヘイブンに住民票移している連中が、年に一度、もったいぶって作る、長い長い曲が数曲入っただけのアルバムを買わされ、期末テストの時とおんなじ顔して、辞書の代わりに、歌詞カードとライナー首っ引きで、「ロック」を聴くことになるのである。
オレは60年代ロックに走り、サコはギターをやり始めた。
以降、サコの家行っても、一緒にレコードを聴くということが無くなった。
この1974年の「ズィング・アローと朝焼けの仮面ライダー」の「SoundPit」のイントロはこのよう影響を与えたのである。
T.rexの突然の人気失墜は、巷間で云われているように、アメリカ進出に失敗したことでも、マーク・ボランが太ったことでもない。
この1974年の「ズィング・アローと朝焼けの仮面ライダー」の「SoundPit」のイントロに・・・・いや、違う。
そうだ、その時、ワシらはもう、「中学生」ではなかった。
「ズィング・アローと朝焼けの仮面ライダー」をサコの家で聴いた時、もう、「高校生」になっていた。
そう。もう、「ガキ」じゃなかったのだ、マーク・ボランをバカにできるほど、「大人」、になってしまっていたのだ。
もうウンザリするほど長いこと長いこと、死ぬまで、続く「大人」に・・・・。
(駐 オレはバラで買わず、下の5枚組を33ドル2400円ほどで米Amazonから買った}
Marc Bolan & T. Rex" (Marc Bolan & T. Rex)